赤ちゃん研究

「ストレスコントロール」

2017.06.03

 最近、各クラスを回っていると、どのクラスも随分と落ち着いてきたなと思います。思い思いの遊びを楽しんでいる子、抱っこをされてはいるものの、周りをきょろきょろとしながら興味津々に笑顔で過ごす子など様々ですが、どの子も先生との信頼がだいぶ深まってきたようで、安心して過ごしているようです。4月当初は、新しい環境へのストレスなのか、体調を崩す子も多かったのですが、今ではお休みもだいぶ減り、元気に登園してきています。
 よく保育園では、赤ちゃんが担任と1日も早く慣れて、安心して過ごしてもらえるように、担任の先生を「担当制」で行っているという話を聞くことがあります。特定の担任が決まった子どもとだけ関わるという保育の仕方です。一方、木月保育園ではあえて「担当制」は行っていません。それは、人それぞれに相性があるからです。相性が良い人との出会いはその子にとっては素晴らしいことですが、反対に相性の悪い人との出会いは最悪です。しかも、相性が良いか悪いかは簡単には判断できません。たとえ赤ちゃんが泣いて叫んだとしても、赤ちゃんの体調が悪いだけかもしれません。容易に判断するのは難しいのです。また、園内では大勢の先生との出会いがあります。その中で赤ちゃんは、多くの価値観を知り、自分に都合よく良いところだけを取り入れていくのです。
 人は赤ちゃんの頃から、ストレスを上手に回避する能力を学んでいきます。その力を使いながら、大勢の大人と上手に付き合っていきます。もしかしたら「私、この先生大好き」や「うわ、嫌いな先生来ちゃった」などと考えているのかもしれませんが、そんな時でも上手に大人と付き合う力を学んでいるのです。
 子ども達は異年齢保育やお手伝い保育を通して、多くの子ども同士のふれあいからも、コミュニケーションをはかる力を身に着けています。これからも大勢の人との出会いがある環境を整えていきたいと思います。

(おたよりの続き)
 メアリー・エインズワースは、「新奇な場面」というものを考案します。その場面で、母親と子どもが、二人だけで5分間、部屋に残され、自宅でするように遊び、その後、子どもは、母親の見守る中で、約17分間、同室にいるボランティアを目にするか、その人と接触するかを観察します。そして、母親が園長から呼び出され、学生ボランティアに子どもを2分預けて出て行きます。その最後の30秒間は、幼児にとっては最もつらい時間ですが、その時間帯に幼児が見せた行動が、その子の将来を占う上でとりわけ有用であることがわかったのです。この30秒間を、母親の不在から気をそらして過ごせた幼児は、5歳になってマシュマロ実験を受けると、お菓子のためにより長く待ち、より効果的に気をそらすことが出来ました。これとは対照的に、つらい時間を耐えるのに必要な、気をそらす戦略をとれなかった幼児は、3年後にお菓子のために待っているときにもやはり、そうした戦略がとれず、早くベルを鳴らしてしまったのです。この結果は、人生の早い段階からストレスをコントロールし、「冷却」するために注意を調整するのは重要であることを強く示しているとミシェルは言います。
 ミシェルは、この結果からこのような提案をしています。誕生時の赤ちゃんは、その時々の内的状態と、自分が頼っている保育者によって、ほぼ完全にコントロールされています。赤ちゃんが子宮の外で過ごす最初の数ヶ月のあいだ、なだめたり、揺り動かしたり、授乳したり、抱きしめたりすることが、昼夜を問わず、保育者の主な仕事になります。赤ちゃんがどれだけ愛情を込めて、優しく育てられたか、あるいは、どれだけ残酷で冷淡な仕打ちを受け、放置されたり虐待されたりしたかは、子どもの脳に刻みつけられ、子どもの将来を左右します。赤ちゃんのストレスレベルが、慢性的に高い状態にならないようにし、安心で安全を感じられるように、緊密で温かい愛着の形成を促すことが決定的に重要であると主張します。
 この考察が、多分「担当制」という、特定の保育者が常に赤ちゃんと接することが必要であると言う考え方の一つの根拠になっています。しかし、重要なのは、特定の人だけにすることではなく、どのような関わりをするかが問題なのです。それは、親から引き離し、施設で育てられることのストレスから、赤ちゃんを解放すべきだという考え方にもなりかねません。しかし、その考察をよく読むとやはり関わりの問題であることがわかります。
 小さな時から、愛情をこめてしっかり育てられ、上手にストレスをコントロールできるようになることはとても大切なことですね。

 赤ちゃんの調整機能について6月15日ごろ載せます

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