園長日記

2017 年 6 月 30 日 金曜日

    最近、2歳児の子ども達の育ちがすごいなと思う場面をよく目にします。あひる組にいた頃は、まだまだ、甘えてしまい、「やって」と先生に何でもやってもらう姿をよく見かけたのですが、最近では、「○○ちゃん上手だね」や「○○できたね」等の先生の言葉かけもあって、どの子も自ら挑戦しようとする姿が目立ってきました。
2歳児は、見方によっては「イヤイヤ期」と言われるほど、大人のいうことは聞かずに何でも自分でもやってしまいますが、自らやりたいという思いを共感しながら一緒にやってあげると、次から次へと自分でやるようになります。しかし、うまくタイミングが合わなかったり、十分成長していないと、思いと発達がアンバランスなので、上手に出来ず、子どもも満足できません。
     先日、給食の準備をしている時間に、4月から入園したA君がフラフラお部屋を歩き回っていました。先生が何度か声をかけてはいるのですが、なんとか1人で解決したいようで、いっこうにフラフラしています。そんな時です、BちゃんがA君の側によって行き、「エプロン付けてここのお席に座るんだよ」っと一言、その声に何のためらいもなく、言われるままにエプロンをつけて席に着きました。どうも、自分の座る場所がわからなかったようでした。もし先生に聞いていればもっと早く解決したかもしれませんでした。
    時として大人の声は子どもにとっては受け入れたくない時もあり、子ども同士のやり取りとなると、特別な関わりに変わります。きっと子ども同士の方が上手く行く時もよくあります。月齢の低いA君はまだ上手にお話しが出来ません。また、4月からの入園でもあるので先生との関係も十分ではなかったかもしれません。こんな時こそ子ども同士の関わりは大切ですね。イヤイヤ期の子どもでも、自らやりたいと思う環境をこれからもつくっていきたいです。

(おたよりの続き)
     以前、園長日記で書いた「マシュマロ実験」で、うまく先延ばしが出来る子どもは、魅力的なお菓子とベルから戦略的に気をそらす方法を思いつきました。それは、彼らが、様々な方法を使って自らを冷却することに成功したのです。彼らは、また、誘惑するもののクールで抽象的で、情報を提供してくれる側面に意識を集中し、想像力を働かせ、ホットな特徴を避けたり、変えたりして冷却しました。お菓子を手に入れるために待つのに、彼らが使った多種多様な認知的スキルは、ずっと後年、友だちと映画に出かける代わりにハイスクールの試験のために勉強したり、人生で彼らを待ち受けるほかの無数の待ったなしの誘惑に逆らったりするのに必要とされるスキルのプロトタイプであるとミシェルは考えています。
    ここで、私は少し疑問を持ちます。多分それは、ミシェルによって、考察を進める中で解明されることでしょうが、現時点ではその説明に、実際の子どもたちを見ていて「そうかな?」と思うところがあります。それは、ホットな情動をクールにする方法として、気をそらすことが中心に語られていますが、コメントにもありましたが、私たち集団で子どもたちを保育している現場として、クールダウンするために、他の子どもの存在、子ども集団の力が影響することが大きいような気がします。遊びに集中して、なかなかそれを切り上げることが出来ない1歳児に、ある保育者が他児を呼びに行かせたのです。すると、いくら大人が指示してもきかなかった子が、同じ年齢の子が誘うと、いとも簡単に切り上げ、自ら次の行動に移っていったのです。その行為は、協力を基盤として進化してきた人類において、仲間の誘いに対して、社会規範を守ろうとする力が働いた気がします。
    もし、マシュマロ実験の時に、部屋に同年齢の複数の子どもたちを残して立ち去ったときに、どのように子ども同士が影響し合って欲求を先延ばすかを知りたい気がします。また、もし、異年齢の子どもたちが部屋にいたときには、どのような行動を起こすかを知りたい気もします。これは、園で実験が出来るかもしれませんね。もしかしたら、友だちの存在が、気をそらす対象になるのかもしれませんし、励まし合うのかもしれませんし、競い合うこともあるかもしれません。一人の子どもの観察から得る結果よりも、より複雑な条件が絡み合うことでしょう。しかし、現実の社会では、きっとその方が多くの場面で起きることのような気がするのです。
    ミシェルの考察に戻ってみます。彼は、年齢は多きに関係があると言います。4歳未満の子どもの大半は、マシュマロ実験で欲求充足を先延ばしにし続けられないと言います。誘惑に直面すると、たいてい30秒以内にベルを鳴らしたり、お菓子をかじり始めたりします。それは、クールシステムが、まだ十分発達しないからだと彼は考えています。彼らにとって、殺風景な小部屋でクッキーとベルに向かい合って座っているのには、恐ろしく長い時間なのです。
 また、性別も関係しているとしています。男の子と女の子とは、それぞれ成長の異なる段階で、異なる木の実を発達させますし、手に入る報酬にも持つ意欲が左右されると考えています。男の子にとって、待つ甲斐のある報酬も、女の子にとっては望ましくないかもしれません。その逆があるかもしれません、しかし、どちらにとっても同じ価値を持つものに対しても男女の差が出たようです。
 どちらにしても、保育園では個人差はあっても、「待つこと」「我慢すること」の力は確実についていきます。それはやはり、集団での育ちが大きく影響しているのだろうと思っています。

2017 年 6 月 15 日 木曜日

 赤ちゃんは、ある見方からすると非常に弱い存在であり、一方、非常に強い存在であるという見方も出来ます。ダメージを受けやすい反面、そこから立ち直る力も持っています。大人からやってもらっている受動的な存在かと思うと、大人にやさせるような能動的な存在でもあります。もしかしたら、弱い存在であるというのは、その後それを調整してもらうためのアピールかもしれないと思うことがあります。ただ、一方的に悪い影響を受けるだけの受動的な存在であるのであれば、過酷なこの世界の中で大人からの庇護(ひご)の元だけでは生き延びてくることができなかったに違いないと思っています。
 赤ちゃんが、発育するに当たり、初期の情動的経験は、脳の構造に深くとどめられ、その後の人生の展開に重大な影響をもたらすということが、ミシェルの行なった赤ちゃんに対する実験でわかりました。では、その影響は、その後、修正がきかないかということですが、実はまだチャンスはあるのです。赤ちゃんは、情動を調整し、認知的スキルや対人関係のスキル、情動的スキルを伸ばすように、手がさしのべられれば、赤ちゃんがダメージに最も弱いこの人生の初期段階には、改善の可能性が一番多くあるようです。
 誕生から数ヶ月以内に、保育者は赤ちゃんが苦悩の感覚にひたるのをやめさせ、子どもが興味を持つような活動に注意を向けさせることが出来るというのです。これはやがて、赤ちゃんが自分の気をそらして自らを落ち着かせる力を学ぶ助けになるようです。神経のレベルでは、赤ちゃんはネガティブな情動を「冷却」したり調整したりするための、注意コントロールシステムとして、脳の前頭皮質中部を発達させ始めます。万事が順調にいくと、赤ちゃんは反射的ではなく、思慮深くなり、ホットではなくクールな対応を見せ、自分の目的や感覚、意図を適切に表現できるようになるというのです。
 自己調整機能発達の分野の先駆者に、マイケル・ポズナーとメアリー・ロスバーという人がいます。ミシェルは、彼らによるこのプロセスについての主張を紹介しています。「生後4ヶ月の時には、示された刺激にすべて目をやる子どもたちも、一年半後に実験室に戻ってくるときには、自分自身の方針をしっかり持っている。自分の計画の方が、優先順位が高いため、私たちのディスプレイに注目させるのは難しい。私たちは、必死の努力をしてみた挙げ句、首を横に振り、この子たちは独自の考えを持っているとつぶやくしかない。」
 この言葉に対して、ミシェルは、親であれば誰でも承知していることと断わりながら、子どもは2歳の誕生日の頃に、無言の独立宣言をすることが多いと言います。子どもが革命に手を染めるこのよう時期には、独立に向けた子どもたちの奮闘のせいで、保育者は、苦労します。それは、いわゆる「いやいや期」と呼ばれたり、「反抗期」と呼ばれたり、テリブルツーと呼ばれる「恐怖の2歳児」と言われる所以でしょう。
 子どもはその時期を越え、2,3歳頃に自分の思考や感覚、行動をコントロールできるようになり、このスキルは生後4,5年目で次第に目につきやすくなります。このスキルは、マシュマロ実験での成功だけでなく、小学校やその後の人生に適応する上でも、決定的に重要であるとミシェルは強調します。これが、ミシェルがマシュマロ実験を4歳の子を対象に行なった理由であり、2歳になるころの自己主張は、大人を往々にして困らせることはあっても、その後の人生において、とても重要な時期なのです。
 この様に、赤ちゃんの頃から見えないところで子どもは成長しています。親や先生の言うことも聞かずに、自分のやりたいことだけをやろうとする。一見、この子の将来は大丈夫だろうかと、親の頭を悩ませる時期ではあります。しかし、それこそ正常な発達をしている証拠だと行っているのです。ですから、子どもの育ちに目を向けながら、大人は自ら育とうとする力を見守っていきたいですね。

2017 年 6 月 3 日 土曜日

 最近、各クラスを回っていると、どのクラスも随分と落ち着いてきたなと思います。思い思いの遊びを楽しんでいる子、抱っこをされてはいるものの、周りをきょろきょろとしながら興味津々に笑顔で過ごす子など様々ですが、どの子も先生との信頼がだいぶ深まってきたようで、安心して過ごしているようです。4月当初は、新しい環境へのストレスなのか、体調を崩す子も多かったのですが、今ではお休みもだいぶ減り、元気に登園してきています。
 よく保育園では、赤ちゃんが担任と1日も早く慣れて、安心して過ごしてもらえるように、担任の先生を「担当制」で行っているという話を聞くことがあります。特定の担任が決まった子どもとだけ関わるという保育の仕方です。一方、木月保育園ではあえて「担当制」は行っていません。それは、人それぞれに相性があるからです。相性が良い人との出会いはその子にとっては素晴らしいことですが、反対に相性の悪い人との出会いは最悪です。しかも、相性が良いか悪いかは簡単には判断できません。たとえ赤ちゃんが泣いて叫んだとしても、赤ちゃんの体調が悪いだけかもしれません。容易に判断するのは難しいのです。また、園内では大勢の先生との出会いがあります。その中で赤ちゃんは、多くの価値観を知り、自分に都合よく良いところだけを取り入れていくのです。
 人は赤ちゃんの頃から、ストレスを上手に回避する能力を学んでいきます。その力を使いながら、大勢の大人と上手に付き合っていきます。もしかしたら「私、この先生大好き」や「うわ、嫌いな先生来ちゃった」などと考えているのかもしれませんが、そんな時でも上手に大人と付き合う力を学んでいるのです。
 子ども達は異年齢保育やお手伝い保育を通して、多くの子ども同士のふれあいからも、コミュニケーションをはかる力を身に着けています。これからも大勢の人との出会いがある環境を整えていきたいと思います。

(おたよりの続き)
 メアリー・エインズワースは、「新奇な場面」というものを考案します。その場面で、母親と子どもが、二人だけで5分間、部屋に残され、自宅でするように遊び、その後、子どもは、母親の見守る中で、約17分間、同室にいるボランティアを目にするか、その人と接触するかを観察します。そして、母親が園長から呼び出され、学生ボランティアに子どもを2分預けて出て行きます。その最後の30秒間は、幼児にとっては最もつらい時間ですが、その時間帯に幼児が見せた行動が、その子の将来を占う上でとりわけ有用であることがわかったのです。この30秒間を、母親の不在から気をそらして過ごせた幼児は、5歳になってマシュマロ実験を受けると、お菓子のためにより長く待ち、より効果的に気をそらすことが出来ました。これとは対照的に、つらい時間を耐えるのに必要な、気をそらす戦略をとれなかった幼児は、3年後にお菓子のために待っているときにもやはり、そうした戦略がとれず、早くベルを鳴らしてしまったのです。この結果は、人生の早い段階からストレスをコントロールし、「冷却」するために注意を調整するのは重要であることを強く示しているとミシェルは言います。
 ミシェルは、この結果からこのような提案をしています。誕生時の赤ちゃんは、その時々の内的状態と、自分が頼っている保育者によって、ほぼ完全にコントロールされています。赤ちゃんが子宮の外で過ごす最初の数ヶ月のあいだ、なだめたり、揺り動かしたり、授乳したり、抱きしめたりすることが、昼夜を問わず、保育者の主な仕事になります。赤ちゃんがどれだけ愛情を込めて、優しく育てられたか、あるいは、どれだけ残酷で冷淡な仕打ちを受け、放置されたり虐待されたりしたかは、子どもの脳に刻みつけられ、子どもの将来を左右します。赤ちゃんのストレスレベルが、慢性的に高い状態にならないようにし、安心で安全を感じられるように、緊密で温かい愛着の形成を促すことが決定的に重要であると主張します。
 この考察が、多分「担当制」という、特定の保育者が常に赤ちゃんと接することが必要であると言う考え方の一つの根拠になっています。しかし、重要なのは、特定の人だけにすることではなく、どのような関わりをするかが問題なのです。それは、親から引き離し、施設で育てられることのストレスから、赤ちゃんを解放すべきだという考え方にもなりかねません。しかし、その考察をよく読むとやはり関わりの問題であることがわかります。
 小さな時から、愛情をこめてしっかり育てられ、上手にストレスをコントロールできるようになることはとても大切なことですね。


 赤ちゃんの調整機能について6月15日ごろ載せます