赤ちゃん研究

「猿は猿まねが出来ない???」

2016.02.13

この模倣という行為は、現在の研究では、われわれヒトの祖先がチンパンジーの祖先と枝分かれした後、およそ500万年前に比較的に獲得してきた、ことばに匹敵するほど重要な能力であるということが分かっています。
 ではなぜヒトは身ぶりを模倣できるようになったのでしょうか。ヒトは、社会を形成し、そこで助け合い、協力して生きてきました。当然、そのためには他者とのコミュニケーションが大切になってきます。その際、言葉だけに頼るのでなく、他者の身ぶりを頻繁に模倣し、また同時に模倣されていることに気付きます。他者の身体の動きに注目した模倣は、他者と同じ経験を忠実に繰り返すことを可能になっていきます。その結果、自分の心と他者の心をしっかりと重ね合わせることができ、他者がなにを考えているのか、何を意図しているのか、といった心的状態を、他者の行為を観察するだけで読み取ることができるようになります。それが対人知性と呼ばれるスキルで、現在生きていく上で、最も大切な知性であるといわれています。これは、自分が属する社会のメンバーと円滑にコミュニケーションするうえで、欠くことのできない能力であるからです。
一方、猿は「猿まね」とは言うものの、実は、ものを操作しないような「身体の動き」の情報しか含まない行為を模倣するのは、サルにとって非常に困難であるようです。ヒトとチンパンジーの模倣能力の違いの実験をテレビで見たことがあります。それは、こんな実験でした。くま手を使って遠くの物を引き寄せるという行為を、チンパンジーとヒトの赤ちゃんがどう模倣するかを比較した研究です。くま手を「くるっと回転 させる」という意味のない行為を挟んだ後に、物を「引き寄せる」行為を見せた場合、くま手を「回転させる」 行為まで模倣したのは、ヒトだけでした。チンパンジーはこの行為は無視して、「引き寄せる」という部分だけを模倣したのです。どうやら、チンパン ジーは他人の行為を模倣するときに、他人が扱う物の機能や因果関係、最終目的といった情報を手掛かりにしているようなのです。
 それに対し、ヒトは、例え意味のない行為であっても、他人の身体の動きまで忠実に模倣します。つまり、見たままにまねる「猿まね」をするのです。猿まねという言葉には、独創性に欠ける、考えなくてもできる、などあまりよくないイメージがありますが、実はわれわれ人類が進化の過程で独自に獲得した極めて重要な能力だといえるようです。
ということから、サルとヒトが分かれていく進化の過程で、ヒトは「模倣」という行為を発達させていったようだと考えられています。では、なぜ、人類だけが模倣する能力を発達させたかというと、社会を形成し、その中でコミュニケーションをとるために必要だったのです。
霊長類に固有の機能として「共認機能」というものがあります。これは、同類と言われる周りの期待に応えることによって、安心や喜びなどの気持ちの充足を得る回路で、サルや人類は、この周りの期待に応える充足(期応充足)を最大の活力源にしているのです。 そして、人類は、この期応充足というニューロンによって、皆で状況を共認し、課題を共認し、役割や規範を共認していきました。そして、意識を統合することによって、秩序化をはかり、その秩序によって、集団を統合し、次第に社会を統合していったのです。

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