園長日記

2011 年 12 月 15 日 木曜日
 よく、集団心理といって、共感が、意識されることなく伝染していく場合があります。集団の中の中心になる人間の激情が、その場にいる人々に集団感染した場合、個人の感情が全員の共通した感情となり、最初に共感した内容とは別の感情になってしまい、暴走してしまうことがあります。共感とは、他者と繋がりを持つことで、大切な能力なのですが、そのためには、相手に意識を向け、事態をしっかり理解し判断することが必要になるのですが、それは、脳の前頭前野の役目だといわれています。この部分が十分と発達していなければ、共感によって、行動までもそっくりまねしてしまうのです。また、前頭前野が働くことによって、これらの能力は学習や経験によって得られる知識、他人の人権を認め、思いやることのできる心などに支えられて十分に発揮されるのです。他者に対して共感する時、人が他者と対するとき、即座に好意などの感情的な親近感をもたらすのを「裏の道」とすると、より洗練された社会的感覚をもたらし、適切な反応を導き出すのが「表の道」です。ミラーニューロンの働きは「裏の道」で、この能力は、人と人とがうまく同調するために必要です。同調は、お互いが考えるのではなく、非言語的ヒントを即座に読みとって円滑に反応する必要があるからです。  一方、社会における自己存在の位置の自覚、社会の潮流の把握、必要な情報を収集して冷静に解決策を練る能力は「表の道」であり、それを支えるのは教育、学習によって得られる多くの知識です。社会的意識の能力発揮はこれら裏の道、表の道の二つのシステムが相補いあう必要があります。しかし、表の道は、裏の道がきちんと整備されなければ、開通が困難になります。学校教育では、社会的認知能力に役立つ知識である表の道を子どもたちに与えるためにあるといわれ、乳幼児教育は、豊かな人間関係を築くための、原共感、情動チューニング、共感的正確性,社会認知能力からなる社会脳である(社会の一員意識)裏の道を育てる期間とも言えます。  こうして見ると、これまでの教育では、「賢明に生きるため、出世するための知識」を身につけることが優先され、学問的な知識や技術、社会の中で適切に行動するために必要なルールや規範、儀礼を読みとる能力など個々の人間の表の道の能力ばかりが論じられ、強調され、その習得のための学習や訓練が行われてきたといえます。しかし、脳科学の進歩に伴い、人が社会の中で賢明に生きるための社会的知性とは、人と人との関係において感情、情動で働く脳の裏の道の能力も存在することがわかってきたのです。 社会脳における他人と同調する能力、傾聴する能力、共感的関心など、裏の道のシステムの能力の高さをともなった上で、高い知力、学力を持ってこそ、始めて人はよりよい社会人としていきることができるのです。つまり社会で生きるということは、脳科学の面で見ると、他者と自分の脳の交流であって、この交流を上手に行う脳の反応経路、社会脳を持っている人は生き方が上手だといえるのです。 そして、社会的能力、社会的知性の発達に乳幼児期がいかに大切であるかが認識されています。そしてこの中心となるのが、他との愛着形成です。乳幼児期に豊かな愛着の経験を持つ人は、ストレスに出会ったときにストレスを和らげ、自分を支えてくれる心の港を持つことができるのです。  ですから、乳幼児期こそ、生きた人間同士が顔と顔を直接向き合うことが必要になるのです。
2011 年 12 月 2 日 金曜日
 以前、園長日記で載せた「ピーステーブル」は年度当初から幼児組の窓際に設置されています。このピーステーブルとは「平和になるためのテーブル」としてあります。友達とけんかをしたり、言い争いをした時に、落ち着いて話し合いが出来るように2つのルールがあります。1つは「友達の話をしっかりと聞く」です。2つ目は「自分の意見をしっかりと言う」です。設置した当初は3・4才の子は上手に話すということが出来ず自分の主張ばかりをしていました。そのような中、ぞう組の子達が中心に少しずつ活用するようになってきました。時には4・5人が話し合いをしている場面も見ることがあります。以前は先生からテーブルに誘っていたのが、今では自分達で行くようになって来ました。そっと近づいて聞いていると、お互いが自分の意見をしっかりと言っていて、どこに納得したのかは分かりませんが、いつの間にか解決していることもしばしばです。  人と関わる力は乳幼児期からの関わりがとても重要です。これからを生きていく力としてしっかりと育てていきたいと思います。 (おたよりの続き)  社会脳は子どもの知識・教養・人格の形成に必要不可欠であることがわかっています。そして、人類の脳にあるミラーニューロンという神経細胞によって、心の中だけで他人になってみて、その仮想体験を基に他者の気持ちを理解したり、他者の意図を理解したら、他者の行動を予測したりする能力を持ちます。この能力こそが、他者から知識・教養・人格を受け取る上で重要であると同時に、他者理解を通じて共感・同情・相互利益・相互扶助を行う「共生脳」においても中心的な役割を演じているのです。その意味で、人類では社会脳を鍛えることは共生脳を鍛えることになり、それが、子育てをするうえで、重要になってくるのです。そして、それらを鍛えるために、子どもに教えるとか、躾けるというようなやり方ではなく、子どもが自然に、周りから良い知識・教養・人格を吸収するように、良い社会脳と良い共生脳を育てる環境を作ることが、早期教育で最優先されるべき課題なのです。  しかし、このような環境の中で子どもが育つことは、核家族化、地域社会におけるコミュニティーの欠如、少子化などにより困難になってきています。子ども同士の関係の中で、「顔と顔を突き合わせてお互いの感情を理解する」という共生脳の発育は、今や保育園のような施設の中でないとなかなか体験できなくなっているのです。エドワード・ソーンダイクはこれを「社会的知性」と名付け、「人々を理解し管理する能力であり、人間の世界でうまく生きていくために誰もが必要とするスキルである」と定義しました。そして、この知性は、人間関係について広い知識を発揮する能力に留まらず、実際の人間関係の場でもその知性を発揮し、実践できる能力でもあることがわかっていき、この能力と脳の働きの関係を考える上で登場したのが「社会脳」なのです。  しかし、「社会脳」というのは、ある神経細胞のことを指すわけではなく、小脳や大脳や前頭葉のように脳のある特定の部位を指すわけでもありません。他人との関係や他人に対する思考や感情などを統括する神経メカニズムの総称であり、脳内の複数の部位が関係していて、その働きとして注目されるのは他者の心的状態に常に波長を合わせ、また逆に他者の心的状態から影響を受けるプロセスのことをいいます。更に、「社会脳」の能力は、書物の上での学習で高められる能力ではなく、乳幼児期における養育者との関わりによって目覚め、以後の人間関係の積み重ねによって発達していく能力なのです。  社会脳の能力は、社会生活を行う上で必要であり、社会生活の中で能力を高め、最終的には人間社会の平和維持にも役立つ能力であるので、いじめ、少年犯罪などの根源に、この「社会的知性」の欠如、社会脳の未成熟があるのではないかと推測されています。  では、共感の次に必要な能力は何かというと、「全面的な受容性を持って傾聴する能力。相手に歩調を合わせる能力」と言われています。これを「情動チューニング」と名付けています。そして、この能力の発揮に役目を果たすのがミラーニューロンなのです。人間の脳はミラーニューロンの働きで、他者の感情を、動きを、感覚を、情動を自分の内部で起こっているかのように関知することができるために、ミラーニューロンの働きが強い人ほど、共感する能力も強いといわれています。そして、他者から読みとった情報を自分の中で再現することによって、迅速で的確な対応をすることができ、動作の意図をかぎつけただけでニューロンが反応し、そこに働いている動機を探り出し、他者の意図と理由を感知することで、きわめて貴重な社会的情報を得ることができるのです。この周囲の状況に対するアンテナの役割をはたす能力があるお陰で、私たちは高度な社会が形成できるのだと言えます。 これからの教育について12月15日ごろ更新します。